将棋雑誌にみる中学生棋士⑥

10代のときの羽生さんの特集は他の元中学生棋士よりも多い。成績がずば抜けているからだ。「羽生善治、強さの秘密を探る」という特集は、1989年のもの。棋戦優勝だけでなく、将棋大賞という最優秀棋士に選ばれる賞を頂いているのだから、特集にされない訳がない。
では、羽生さんのことを当時の棋士はどう見ていたか。まだこの段階で、タイトル獲得どころか挑戦もない。


谷川名人「彼は局面局面に応じて常に冷静に最善手を指せる。(中略)ただ今の気持ちのままずっと戦うのは不可能ですから。自分が受け身の立場に立たされた時にどうなるかです」
中原王座「もう一つ正体がつかめてないんですよ。芹沢さんの評価が意外に低かったでしょ。それが当たるかどうか興味ありますね。でもまあ、一流の上の方には行きますよ。僕とか加藤一二三さんとか谷川さんとか、二十歳で強くなりきっていますから、羽生くんもあと二、三年でトップに行きつくでしょう。その時が本当の勝負とは思っています」



他にも、島竜王(当時)や森内四段(当時)へうかがっている。谷川九段らしいというか、この「受け身の立場」という言葉は重い。加藤さんにとって名人戦で大山15世名人に負けたこと、谷川さんにとって中原16世名人に名人位を奪われたことなどが、この受け身の立場に立たされたことなのかもしれない。谷川さんがどこまで想定しての発言なのか、想像してみると面白い。現実はどうなっているのかというと、羽生さんは直後に島九段から竜王位を獲ったが、一年後に谷川九段に奪取され無冠になった。この時期が、谷川さんの言う「受け身の立場」に当たるのかは意見があるだろうが、すぐに立ち直って棋王位を獲っている。
中原さんについて言えば、「なりきっている」や「行きつく」といった、最高潮に達することを表現するような言い回しが多い。中原さんは自分の経験から語るのが非常に巧い人だと感じる。大山15世名人についての本だったと思うが、「45歳くらいになると頭の将棋盤がぼんやりする」や「大山先生も[その年齢くらいで]指し手おかしかったもん」みたいな発言が非常に印象的だった。ともかく、中原さんの予想通り、羽生さんは二、三年後には全棋士のなかで谷川さんを抜いて最多タイトル保持者になっている。
最後に師匠の二上九段は弟子のことをどう見ていたのか。


彼[羽生]とて弱点がないわけじゃない。攻めなら攻め、受けなら受け、一方に偏ったとき敗局の危機がある。



攻めも受けも緩急自在に使いこなすという発言のあとのこれである。具体的な棋譜を用いて二上九段が解説をしているが、羽生評としてはこれまで見たことがなかったので、新鮮であった。

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