河口俊彦「対局日誌」で注目された棋士たち③

どの棋士に注目するのか選別するのは難しい。今だったら誰だろう。藤井四段は外せないとして、タイトル挑戦すらしていない棋士から選べというなら、増田四段か。黒沢四段もいま棋王戦の挑戦者決定戦に出場しているから選んでみたい。こんな風に試行錯誤していくと、思ったほど独自の見解を打ち出すのは難しいように思えてしまう。
河口八段が高橋九段のほかに注目していたのが、中村九段である。もっとも棋聖戦の挑戦者になったというのが大きいであろう。米長永世棋聖へのタイトル挑戦時の「対局日誌」から抜粋する。


中村の特異な棋風は、将棋ファンの目に新鮮なものとうつっただろう。たとえば第一局の投了の場面など今までのプロ将棋になかったものであり、エポックな出来事として書きとめておきたいのである。



福崎九段や塚田九段といった同時期の若手棋士にも注目しているから、河口八段が誰に着目していたかを深く考えてみるのはあまり意味がないかもしれない。それよりも、芹沢九段だ。


「今度中村君と順位戦で当っているが、そのときは私も本気で指すぞ、宣言したんだ。1月23日にやるが、21、22日の仕事は全部キャンセルしたよ」と言った。



谷川九段とB1級で対局した際、本気を出すと言って谷川九段を破ったことは有名な話である。それと同じことを中村九段に対しても行おうとした。自分が知る限り、谷川・中村の2人だけである。芹沢九段は自らの基準に従って、「選別」したのかもしれない。羽生二冠とも対局があるが、芹沢九段は負けているし、そもそも順位戦ではない。順位戦こそが本場所(升田九段)と見られていた時代である。だからこそ、河口八段もわざわざ取り上げたのだろう。
結果は、谷川九段のときと反対になってしまった。だからどうだと言うわけではない。記録に残すというのは時として、残酷な行為だと感じてしまった。

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