なぜビジネス書は将棋に目をつけたのか?①

ビジネス書というジャンルはいつから始まったのだろう。川上恒雄『「ビジネス書」と日本人』という著書がある。それによると、戦後からあるジャンルだそうだ。サラリーマンが働く現場で学べないこと、学校で学ばなかったことを本から得るという目的で作られたとある。
では、将棋についてのビジネス書が昔からあったのか?そう疑問に思うだろう。最近でこそ、羽生善治や渡辺明といったトップ棋士が書いたとされるビジネス書は多い。中原誠だって大山康晴だって書いているだろうと思うのは、自然だろう。
実は1970年代になってからだそうだ。中原16世名人の師匠である高柳敏夫は財界人とのコネクションが強かったと言われているし、大山康晴15世名人も高柳九段に引けを取らないだろう。彼らは戦後から活躍している棋士だ。にも関わらず、将棋についてのビジネス書がなかった。なぜだろう?
大山康晴『己れに勝つ』という本がある。PHP出版から上梓されている。PHP出版というのは、パナソニックの創業者である松下幸之助の命を受けて作られた。松下は人生哲学を説く事業に積極的で、パナソニックがスポンサーになった水戸黄門もまた、そういった意図で制作されたのが始まりとされている。ともかく、己れに勝つはれっきとしたビジネス書といってもよい。
パラパラっとめくって気づいたことがある。ビジネス書と呼ぶには、ビジネスについてほとんど書かれていないのだ。将棋の話が大半を占めていると言ってもよい。将棋についてのビジネス書というフォーマットがまだ完成されていなかったのでは、と推察される。つまり、70年代以前に将棋関連のビジネス書がないというのは、まだ下地ができあがっていなかったからなのでは、と予想される。
辛うじて、ビジネスとの繋がりがあるのは本の後半だ。大山15世名人とつきあいのある財界人について、自身がコメントするという体裁になっている。たとえば松下幸之助については、


松下さんは将棋を指して、名人の私に勝てるわけはない。負けるとわかっているものに対しては、ご自身で決して手をくださず、自然に相手に頭をさげさせるように誘導する。それが松下さんの作戦であったのか。松下さんの経営哲学の真髄を見る思いがした。



とある。
今から見れば、ビジネス書なの?と思うくらいビジネスらしきことのついての記述が少ない。しかし、70年代当時はまさに試行錯誤の時代であったのかもしれない。
では、いつからそのフォーマットに変化が現れたのか?それは次回に言及したい。

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