なぜビジネス書は将棋に目をつけたのか?②

前回見たように、将棋のビジネス書というのは70年代になっても、まだフォーマットが定まっていなかった。だからこそ、将棋関連のビジネス書がなかったのだと言えるのかもしれない。これが徐々に変わっていったのは、70年代後半から80年代初頭にかけて。前回と同じく大山康晴15世名人の著書ではあるが、タイトルは『勝負強さの人間学』。出版社もPHP出版である。

ずいぶんと体裁が変わったな、という第一印象をもった。目次から、それが顕著になっている。

第一章 勝負に生きる人間学
第二章 ライバルにみる人間学
第三章 勝負強さの人間学
第四章 攻防の人間学
第五章 修行時代の人間学
第六章 転機の人間学

「人間学」という言葉がいつからあったのかはわからない。ドイツの哲学者のイマヌエル=カントがこの人間学という学問にこだわっていた。人間とは何かを問う学問である。ともかくドイツが発祥の学問らしい。

ビジネスの世界でも、人間について語るトピックはいくらでもある。営業とは?出世とは?経営とは?転職とは?キャリアアップとは?等々。『勝負強さの人間学』は、ビジネスの世界と将棋の世界とをすり合わせるような章立てになっている。まさに、ビジネス書のフォーマットが仕上がってきたと言えるのだろう。

これは本の記述にも大きく反映している。たとえば、


少数精鋭主義、といえばよいだろうか。企業の経営でも、必ずしも社員が多いからといって業績があがるものではないだろう。適材適所というか、将棋に例をとれば、少ない駒でもよく性能を発揮するときのほうが優勢になることが多い。



や、


グループという輪のなかで、それぞれの個性を生かし、競争させていくところに輪が大きくなり、企業が発展していく原動力となってくる。人間社会では、競争の原理が働かない限り、そのグループは発展性を失ってしまう。将棋連盟という小さな企業でも、人手を増やし、一つの輪を五人から七人にしたところで、競争原理がストップしてしまえば、輪のなかに五人いるのと七人いるのとのちがいだけであって、決して仕事が発展したということにはならない。むしろ、人件費が増えたというマイナス面だけが残ることになるだろう。



のように、かなり経営を意識した内容に様変わりしている。もっともこの頃は、大山15世名人は将棋連盟の会長であり、経営する側の人間だった。だからビジネスのことについてほとんど語ることのなかった大山15世名人が、時を経てビジネスについて語ってもなんら不思議はない。

将棋関連のビジネス書におけるフォーマットの変化と、棋士大山康晴から経営者大山康晴への変化。この2つがパラレルな関係になっている。偶然なのか、必然なのかはわからないが、興味深い。

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